中部沖縄トラフで新たに2つの熱水域を発見

中部沖縄トラフで新たに2つの熱水域を発見

~熱水噴出域における効率的な調査手法の有効性を確認~

1.概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)では、国が進める海底資源開発の進展に寄与するため、海底資源の成因解明やその調査手法に関する研究開発を行っています。

その一環として、海底資源研究プロジェクト海底熱水システム研究グループでは、海底鉱物資源として有望視されている深海熱水域の効率的な調査手法の研究開発を進めており、この度、マルチビーム音響測深機を用いた高速広域調査により、計4.5日間という極めて短期間の調査で、新しい熱水域を2か所で発見することに成功しました。また、その後の熱水の観察・計測結果から、この2つの熱水域をカバーする巨大な熱水域(3km以上の水平方向の広がり、沖縄トラフの熱水活動としては最大規模)が存在する可能性が示唆されました。

この成果は、新たな調査手法が、従来の手法に比べ熱水域を効率的に見つけるのに有効であることを確認するものであり、今後、更なる科学的調査や検証を通じて深海熱水調査研究スキーム全体の完成度を高めることにより、海底熱水鉱床の分布・規模の把握と成因の解明に寄与することが期待されます。
なお、この本研究調査の一部は、第3回キヤノン財団「理想の追求」研究助成 課題名「沖縄の深海に超巨大海底熱水鉱床を探せ」から助成を受けて行ったものです。

中部沖縄トラフで新たに2つの熱水域を発見

2.背景
中部沖縄トラフでは、1995年に伊平屋北熱水フィールド(以下「伊平屋北オリジナルサイト」という)が発見されてから20年近く、その熱水の組成や微生物を含む生物の生態系研究が行われてきました。また、2010年9月には、地球深部探査船「ちきゅう」によって、国内で初めて深海熱水域の科学掘削調査が実施され、世界で初めてとなる海底下熱水変質硫化鉱物(黒鉱相当)の採取、巨大な海底下熱水溜まりが存在すること等の新しい知見が得られてきました。

それらの結果や、その後の継続的な調査により、中部沖縄トラフでは、これまでに見つかった熱水域を上回るような巨大な海底熱水システムが存在する可能性が示唆されていました。しかし、その可能性を有した熱水域は、多くが未発見のまま残されていると考えられ、科学的にも、また資源調査の観点からも更なる熱水域の発見、調査が期待されています。

深海熱水域を発見する調査手法として、これまでは、(1)調査船で海底の地形等を測定し、何らかの特異的・間接的な特徴を見つけ出すことで調査対象範囲を絞り込み、(2)より詳細な物理・化学的計測により熱水の兆候を捉え、熱水域の存在とおおよその位置を推定、(3)最終的に海底観察・調査を行い確定するという3段階で行われてきました。

しかし、この手法は多大な時間と労力を必要とする割に、熱水の兆候を絞り込む効率や実際に熱水を探し当てる確率が悪いこと、また熱水の位置を特定する精度が低く近接した複数のサイトを見つけることができないこと等の問題があり、中部沖縄トラフ海域においても調査が行われてから約30年が経過していますが、現在までに報告されている深海熱水域はわずか8箇所です。このため、より短期間に成果を上げることのできる効率的な調査手法の確立が求められていました。

3.調査手法
研究チームでは、これまでの長年にわたる深海熱水域の科学調査を通じて、最も効率の良い熱水調査手法として、調査船に搭載するマルチビーム音響測深機(※1)を用いて、船舶で対象海域を広域かつ高速で調査し、短時間で熱水が存在する場所を絞り込むという新しい調査手法に注目しました。

このような調査手法は、音響調査で検知しやすいメタンプルームの調査では既にその有効性が確認されていましたが、条件の異なる熱水域の調査にも応用可能であるとの認識が広まりつつありました。近年、独立行政法人産業技術総合研究所地質情報研究部門が発見した複数の海底熱水活動においても、同様の音響調査による熱水プルームの観測が報告されています。

この方法を用いれば、従来のように地形を観測し、カルデラ地形等での詳細な物理・化学的計測により、熱水域の存在とおおよその位置を推定するという段階を経ずに、対象となる海域をマルチビームを搭載した調査船を走らせるだけで、地形調査と同時に海底熱水活動がどこに存在するのか、という位置の絞り込みまでを短時間かつ効率的に知ることができます(試算では、最大で1日当たり200キロ平方メートルの領域を調査することが可能)。

さらに、従来の方法に比べて絞り込みの精度が高いために、これまでは見つけることが非常に困難だった近接した海底熱水活動(数km以内に隣接するもの)も、容易に検出することが可能となります。

更にこの調査結果に基づき、自律型無人探査機(AUV)や遠隔操作型無人探査機(ROV)による熱水噴出孔の発見、及び搭載する各種調査機器による熱水システムの特性や広がり等熱水域全体の特性の把握、熱水活動の年代、熱水硫化鉱物の組成等、従来よりも踏み込んだ調査を極めて早い段階で行うことも可能となります。

4.調査結果
この調査手法の有効性を確認するために、研究チームでは、2013年11月に海洋調査船「なつしま」による音響調査(マルチビーム音響測深を用いた高速広域調査)を中部沖縄トラフの伊平屋北海丘で行いました。この調査では、海況不良のため調査範囲が限られましたが、伊平屋北海丘の6 km四方の調査を夜間1晩実施し、すでに研究が進んでいる熱水域(伊平屋北オリジナルサイト)の他に、南方1.2kmと2.6kmの地点に2か所、明瞭な熱水プルームの兆候を検出しました。

続いて2013年12月に実施したAUV「うらしま」の調査では、先の調査と同様に海況不良のため、1日しか調査できませんでしたが、2013年11月の調査で熱水噴出のシグナルが検出された海域(2.6km×1km)において、AUV「うらしま」に搭載された音響装置と化学センサーによって詳細な海底地形と熱水噴出シグナルを明らかにし、さらに海域を絞り込みました。

実質1.5日で絞り込んだ海域において、2014年1月に海洋調査船「かいよう」とROV「ハイパードルフィン」を用いた海底観察調査を3日間実施し、2地点(伊平屋北ナツ(夏)サイト、伊平屋北アキ(秋)サイトで新たな熱水噴出域を発見することに成功しました。

また、この発見を受け、新たな熱水サイトにおけるROV「ハイパードルフィン」による詳細な観察・計測を行いました。その結果、これらの熱水域は、高さ数mから10mを超える熱水マウンド(隆起地形)を有する活発な熱水活動域で、比較的長期間活動を持続させている熱水活動であることが推察されること、2地点の熱水は、伊平屋北オリジナルサイトの熱水と類似している可能性があること、更に2地点で観察される化学合成生物群集の構成生物種が伊平屋北オリジナルサイトのものとほぼ共通すると推察されること、が分かりました。

今回発見された二つの熱水域は、伊平屋北オリジナルサイトと共通する熱源や海底下熱水循環構造、つまり同じ海底下熱水システムから由来する高温熱水を噴出している可能性が高いことを示唆しています。つまり伊平屋北オリジナルサイトと伊平屋北ナツサイトと伊平屋北アキサイトはひとつの大きな海底熱水域(伊平屋北熱水複合域)と見なすことができ、高温熱水を噴出する地帯の広がりだけを見ても、3km以上の水平方向の広がりを有した極めて大きな海底熱水域であり、これまで沖縄トラフで発見された熱水の中で最も巨大な規模の熱水域であることが考えられます。

5.今後の展望
過去20年来、精力的な研究調査が行われてきた伊平屋北オリジナルサイトのごく近傍に未発見の活発な熱水域が存在していたことを明らかにした今回の発見は、深海熱水域を見つけることが決して容易ではないことを示すとともに、今回、研究チームが適用した高速広域調査手法を用いれば、極めて短い実施時間でも、効率的に深海熱水域を発見できることを明らかにしました。この方法は、マルチビーム音響測深機を搭載している船であれば、活用可能です。

今後は、今回新たに発見した海域について、更にAUV・ROV等を用いた詳細な科学的調査を行うことによって熱水域の規模や特性を科学的に検証するとともに、高速広域調査を中部沖縄トラフの未調査の領域に展開していく予定です。また、(1)高速広域調査、(2)絞り込み熱水特性調査、(3)海底観察調査の3段階からなる深海熱水調査研究スキーム全体を確立し、沖縄トラフ全域、またはその他の海域の熱水調査に応用・展開し、他の海域でもこれらの調査手法が有効であることを確認していく考えです。

深海熱水調査研究スキームの確立は、海洋鉱物資源開発において「熱水鉱床が存在する可能性の高い資源的な観点から有望な熱水」の研究や、科学的に深海という極限環境圏の実態解明の鍵となる「海洋物質循環、極限環境微生物や特異な熱水化学合成生態系の多様性・機能を理解する上で鍵となる学術上重要な熱水」の研究の進展に大きく寄与するものと考えています。

※1 マルチビーム音響測深機
指向性のある音響ビームを船底の送波器から送波、 海底面から反射した音響ビームを受波器で受波し、この送波器から受波器までの音響ビームの伝搬時間より、水深値を面的に求める装置。